見方を変える、二着。
先日のJournalでは、1970年代にLeeが展開していた「Lee Set」のデニムテーラードジャケットを通して、MÍCATAという名前に込めた「見方」について書きました。
よく知っていると思っていたものでも、少し見る角度を変えることで、これまで気づかなかった背景や価値が見えてくることがあります。
今回ご紹介するのも、そんな「見方」を少し変えてくれる二着です。
今年5月、買い付けをしている中で、偶然二着のドイツ製ヴィンテージジャージを見つけました。
一着は、鮮やかなグリーンに白いラインが走る、フルジップ・トラックジャケット。
もう一着は、ダークブラウンをベースに、肩から袖にかけて赤と黄色のラインが入ったハーフジップ・トレーニングジャージです。
どちらも1970年代後半から1980年代前半頃のものと考えられます。
買い付けたのは初夏だったこともあり、しばらく店頭には並べずにいましたが、9月に入り、少しずつ秋らしくなってきたタイミングで、ようやくMÍCATAの店頭に並べています。
「ジャージ」と聞いて、どんな服を思い浮かべるでしょうか。
日本で育った私たちにとっては、スポーツウェアであると同時に、学校の体育着を思い浮かべる人も少なくないかもしれません。
スタンドカラーに、袖を走るライン。リブで絞られた袖口と裾。
特に昭和から平成にかけて学校で使われていたジャージには、今あらためて見ると、どこか懐かしく、少し野暮ったさも感じる独特の佇まいがあります。
今回の二着にも、そんな日本のスクールジャージに通じるような懐かしさがあります。
一見すれば、どちらも少し懐かしい、昔のジャージ。
しかし、この二着には興味深い違いがあります。
一着は、West Germany、西ドイツ製。
そしてもう一着は、East Germany、東ドイツ製。
現在の地図には、どちらの国名も存在しません。
第二次世界大戦後、ドイツは東西に分断され、1949年、西側にはドイツ連邦共和国、東側にはドイツ民主共和国という二つの国家が成立しました。
1989年にベルリンの壁が崩壊し、翌1990年、東西ドイツは再統一されます。
この二着がつくられたと考えられる1970年代後半から1980年代前半は、まだドイツが二つの国に分かれていた時代です。
同じ「ドイツ」という土地にありながら、東と西、それぞれ異なる国でつくられた二着の服。
40年以上の時間を経て、それが偶然MÍCATAで並んでいることにも、ヴィンテージならではの面白さを感じます。
西ドイツ製の一着は、Grasshoppersのトラックジャケット。
鮮やかなグリーンをベースに、肩から袖へ白いラインが走るフルジップ仕様です。
スポーツウェアとして馴染みのあるデザインですが、胸に大きなロゴや装飾はなく、色とラインを中心に構成されたシンプルな佇まいが印象的です。

Grasshoppersは、西ドイツ南部のメッシンゲンにあった繊維企業Merzが、1970年代から展開していたスポーツウェアレーベルです。
鮮やかなグリーンをベースに、肩から袖へ白いラインが走るフルジップ仕様。首元には「Made in West Germany」の表記が残り、フロントにはドイツのOPTIジッパーが使われています。
ブランドの知名度ではなく、服そのもののデザインや佇まい、そしてそこに残された時代の痕跡に惹かれて選んだ一着です。

一方、東ドイツ製の一着は、NVAのハーフジップ・トレーニングトップ。
ダークブラウンに赤と黄色のラインが入り、ハーフジップのスタンドカラーに、胸元には小さなジップポケットが配されています。

NVAとは、旧東ドイツの「Nationale Volksarmee(国家人民軍)」の略称です。
1956年に創設され、東西ドイツが再統一される1990年まで存在した、ドイツ民主共和国の軍隊でした。

今回の一着は、そんなNVAのトレーニングウェアとしてつくられたものです。
軍のためにつくられた服という背景を知らずに見ると、ダークブラウンに赤と黄色のラインを配したデザインは、どこか昔のスクールジャージのようにも見えます。
グリーンのGrasshoppersとは色も構造も異なりますが、どちらにも現代のスポーツウェアとは少し違う、当時ならではの素朴さがあります。
「ジャージ」という言葉には、ファッションとは少し離れたイメージがあるかもしれません。
スポーツをするための服であり、学校で着る服であり、ときには少し野暮ったいものとして見られることもあります。
けれど、あらためて一着の服として眺めてみると、色の組み合わせやラインの入り方、襟の高さ、ジップの位置、シルエットなど、今の服にはない魅力が見えてきます。

さらに、その内側に残された生産国の表記を辿っていけば、その服がつくられた時代や場所まで見えてくることがあります。
一見すれば、どこか懐かしい昔のジャージ。
しかし、「West Germany」「East Germany」という言葉を手掛かりにその背景を辿ってみると、同じ服が少し違って見えてきます。
ヴィンテージの価値は、ブランドや希少性、年代だけで決まるものではないとMÍCATAでは考えています。
何気なく見過ごしてしまいそうなものにも、その背景を知ることで、それまで気づかなかった魅力が見えてくることがあります。
見方を変える、二着。
40年以上前、東と西、それぞれのドイツでつくられた二着のジャージから、そんな古着の面白さを感じてもらえたらと思います。
MÍCATA
